チェリッシュも奥村ちよも石川さゆりもみんな失恋して北へ向かった、、、、、歌を唄った。
失恋したので沖縄へ、失恋ハワイ旅行等は聞かない。
日本人は失恋と北国を結びつける何かがあるのであろうか?
特に昭和の失恋には北の湖(「きたのみずうみ」であり「きたのうみ」ではない。)、北の海峡、北国の青い空、鉛色した日本海、、、、がよく登場した。
傷心への共感、悲劇のヒロイン、ふんぎりと再生。
作り話のような本当の話がある。私の知人(20歳程年下か)男性がいる。
当時、数年間結婚を前提に同棲している彼女がいることはわかっていた。ある時、私が北海道旅行をしていた時(例年ひと月からふた月ほど全道を車中泊で旅している。)彼から電話が入った。「真柄さん。実は彼女と別れました。」どうも話の雰囲気では彼女に愛想をつかされたようだ。いわゆる「フラれた」というわけだ。
私は言った。「○○君 人は失恋した時は北へ向かうものだよ。」我ながらいいセリフだ。「どうだ、今北海道にいるから来ないか。」
○○君は少し考えたようだが、「行きます!」
そして数日後、彼は千歳空港に降り立った。
千歳からは私のハイエースで支笏湖を経由してわがふるさとせたな町へ向かうこととした。支笏湖では、串刺しのジャガイモを食べ歩きしていたところ背後からカラスに見事に奪われた。おまけにカラスは目の前で勝ち誇ったように、足で芋をおさえ嘴で串を起用に抜いて我々に見せつける。失恋した上にカラスまでに馬鹿にされたような立ち上がりとなった。
傷心に塩を擦りこむような思いを抱えながらせたな町へ入る。
夏の北海道の日本海はエメラルドグリーンの凪が続く。私は彼を、日本海を望む高台の牧草地に連れていった。そこは「がんび岱」という青い空と広大な緑の世界。眼下には日本海の青、緑、紺碧が空と出会う。
○○君は暫くその牧場に仰向けに寝転んで目をつむっていた。私は、傷心の彼に近付かずそっとしておいた。
あたりには、静寂と北海道の爽やかな乾いた風。青草の匂いが○○君を包む。
小半時も立たなかっただろうか、○○君はにわかに立ち上がり、「真柄さん! ふんぎりがつきました。傷心は癒えました。どうもありがとうございました!」
その夜は、北檜山温泉ホテルに一泊し、酒を酌み交わし、翌日千歳空港へ送っていった。ターミナルへ入る○○君の足取りは軽そうに見えた。
半月ほどで私も東京へ戻り、○○君と連絡をとった。
「真柄さん! 本当にありがとうございました。良い旅行でした。ところで今度結婚することになりました。」「は?」「はい、この度結婚することになりました。」「誰と? 別れたんじゃないの?」「違う女性です。」「なにそれ。」
まいいか、北海道失恋旅行でふんぎりがついたことは確かだ。
「失恋したなら北へ行け。」
ところで、南半球の国々は失恋したら南へ行くのだろうか。
2022.01