知床の行き止まり。羅臼の町から沖合に国後の山並みを眺めつつ知床半島の海岸線を東へとひた走る。
少し走り町はずれへ出ると間もなく、今はライダー等の人気も高い、「民宿熊の入った家」が見えてくる。昭和61年にヒグマが家に入ったという事件を名前にした宿だ。実際にヒグマが入ったのは宿のすぐ隣の二階家で、なかは当時のままの痕跡が残っている。
さらに東へはるばると。
「相泊(あいどまり)」地区で道は終わるが、その行き止まりの直前に「相泊温泉」の看板が見える。しかし温泉らしいものは見つからない。看板のついているコンクリートの建物がそれかと思って覗いてみると、なんとちょっと臭いのきつい公衆便所だ。何処にあるんだ温泉は。
聞く人も辺りに見当たらず諦めかけてふと波打ち際に目をやると、ブルーシートの小屋がある。漁の施設かなと思ったが、もしや? 慣れなければ少し歩きにくいごろた石の海岸を降りて、小屋の海側に回り込み覗いてみる。
ありました。海側は壁がなく解放された温泉が現れた。脱衣棚、風呂桶も用意されているのには驚いた。そして、混浴ではなくちゃんと男女分かれているのだ。浴槽面ほとんど海面と同じ高さ、コンクリートの枠で囲われ手前には簀子代わりの板があり、浴槽の底はごろた石のまま、温泉はそのごろた石の足元から湧いてくる。満潮時や海が荒れたときには波が温泉を洗うのだろう、昆布などの海藻が湯船に沢山入っている。国後を眺めつつ誰も来ない温泉に浸っているととてもいい気持だ。時々海藻を体に擦り付けてみる。フコダインのぬめりが感じられ
る。良いダシと適度な塩分の効いたお湯に浸かる。
ははあ! ここは高級昆布羅臼昆布の本場、湯豆腐の豆腐は毎回こんな贅沢な気分なんだろうと感心。
野趣たっぷりです。是非訪れてみてください。
と、紹介したのが、2015年。あれから3年。
2018年8月に訪れた「相泊温泉」は・・・・・・・。
「あ、お風呂が無い!」
あの思い出のブルーシートの温泉小屋があった場所は、ごろた石に埋め尽くされたただの海岸に変わっている。わずかに、コンクリートの浴槽枠は確認できるが。 聞けば、2016年8月の台風10号による暴風雨に伴う大時化で、すっかり埋め尽くされてしまったとのこと。
温泉はごろた石の下に今も人知れず湧き出しているのであろうが、復旧再開の予定などは付近には書かれていない。次回訪問時には再び、海藻と一緒に国後島を眺めながら浸かりたいものだ。残念!
相泊温泉の数百メートル手前(羅臼の町寄り)、ごく近くには、同じように海岸に沸く温泉「セセキ温泉」がある。明治32
年に発見された温泉で、テレビドラマ「北の国から2002遺言」のロケにも 使われた。
こちらは、岩場に2か所湧き出る温泉で、各箇所をコンクリートの枠で囲っているが、満潮時は完全に海中に沈む。
この温泉は濱澤政已さんという昆布商の方の私有地に湧き出している温泉で、濱澤さんにより、いつも綺麗に清掃管理されているので、見るだけでも管理費協力金「気持ちの箱」は高くない。
こちらは、2016年も2018年も変わらずにブクブクと泡と共に湧き出している。
羅臼から相泊までの道路は、未だに2016年の豪雨によるがけ崩れの個所が復旧途上、少し走りにくいかも知れないが一度は最後まで行ってみるとよい。国後島を眺めながらのドライブ。羅臼灯台のある高台に上ると、運が良ければ鯨が見えるかも。大学の研究グループの観察に遭遇することもある。
途中にある漁港の突堤では、アブラ子(あいなめ)やガヤ(蝦夷メバル)、黒ソイが昼間でもよく釣れる。船に乗って良し、陸っ針でよし、釣り好きにもたまらない極上エリアだ。
季節によっては、羅臼町への入り口にかかる河口の橋から遡上する鮭の捕獲作業を間近に見ることもできますよ。